あぁ、夏休み。 10000HIT御礼
「人が多い…」
人の雑踏に消え入りそうな声にも、聞きなれている声だからなのか
先頭を歩いて居てもよく反応する将臣。
「仕方ねーだろ。夏祭りなんだから。」
と、振り返って眉根が寄っている男、知盛に声をかける。
その知盛の横には、暑さや人ごみなんてどこ吹く風と団扇を片手に
常と変わらぬ微笑を湛えた重衡がいる。
今日は三人で近くで行われている夏祭りに来ていたのだ。
将臣は動きやすいようにと紺地に縦縞模様の甚平を着ている。
知盛は深い藍染に鷹の柄がところどころ入った浴衣。
重衡は薄い藍染に麻柄模様の浴衣だ。
「将臣殿、この色とりどりの雪のような物は何でしょうか?」
重衡がふと露店を指差し、首を傾げる。
「ああ、カキ氷っていうんだ。氷の上に甘いシロップをかけているんだ。」
「しろっぷ・・・ですか。」
「まぁ、食ってみろよ。知盛も食うだろ?」
後ろを振り返って知盛と視線が合えば、先ほどまで無表情だった顔がニヤリと歪む。
「…兄上がそう仰るならば…」
「素直に食ってみたいって言えよ。」
そんな訳で将臣が懐から財布を出すと、露店のおじさんに声をかける。
「おじさーん、ブルーハワイとレモンと、ブルーハワイとイチゴを混ぜたやつをくれ。」
「あいよー」
重衡がレモン、将臣がブルーハワイ、そして知盛だけがメニューには載っていない紫色。
それぞれ受け取ると、人気のない少し離れた階段に腰をかける。
「兄上… 何故俺だけが紫色なのだ?」
知盛はメニューに載っていなかったことを目敏く見つけて、何か裏があるのではと勘繰っている。
「いや、お前にイチゴは似合わないだろうと思っただけだ。とりえあず食ってみろよ。溶けちまうぜ。」
階段を陣取り、男三人雁首揃えてカキ氷を食べる。
「ま、将臣殿… あ、頭が…」
こめかみあたりを押さえ、苦痛に表情が歪む重衡。
「あ?重衡、大丈夫か??」
心配そうに知盛を挟んで向こう側の重衡に声をかけていれば
隣の知盛も顔を顰める。
「有川… 頭が痛くなるぞ。」
顔を顰めている銀髪兄弟を見て、将臣が笑い出す。
「あははははっ お前らカキ氷で頭が痛むんだな。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
何だか悔しい銀髪兄弟。
食べ終えてからはまた、露店の立並ぶ道へ戻り、将臣が射的をやっている。
それに倣って知盛と重衡も鉄砲を構え、とりあえずは撃ってみる。
「あ、当たりました…」
「俺も当たったぜ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
何故か知盛だけは当たらない。笑
「有川、もう一回やるぞ。」
「おぅけぇ〜い……」
苦心の末…漸く知盛も撃ち落とし、当てたものをそれぞれ手にして人の少ない土手に座る。
「おい、有川。このような所に座ってどうするのだ?」
「まぁ、待ってろよ。もうすぐ始まるから。」
暫くすると、夜空を劈くような音と光りが現れる。
「有川っ 戦の合図か?」
「将臣殿、あれは?」
少し興奮気味な知盛はスルーして、重衡の問いに答える。
「ああ、花火が始まる合図だ。」
「花火…ですか。」
すぐにヒューという音と共に大輪の花が夜空を彩る。
「これは… 見事にございますね。」
「だろ?ここは穴場なんだぜ。」
「ええ、人もあまりなく過ごしやすいですね。」
どんな顔で花火を見ているのか気になり、知盛の表情を窺えば
嬉々とした目で空を見上げている。
「知盛、気に入ったか?」
「ああ… 腹を抉るような音が心地良い…そして、花よりも儚く散っていく…」
そんな知盛の言葉に、二人はそれぞれ心の中にある痛みに返す言葉をなくした。
それからはずっと無言で、三人は夜空を眺め続けた。
花火も終わり家へと帰る途中に公園で、先ほど射的で撃ち落とした物を開ければ…
みんながみんな水鉄砲だった。
将臣のは普通の水鉄砲で、飛ぶ距離もタンクも並みだ。
重衡のは少しタンクが大きめで、何度も補給しなくて良さそうだ。
知盛は…嫌にでかい。数千円するような代物だ。
公園の水道で将臣が水鉄砲に水を入れだす。
「うぉりゃっ!!」
水を入れた水鉄砲で早速知盛を撃つ将臣。
「クッ… やってくれるじゃないか…」
将臣の一撃が知盛の導火線に火をつけたようだ。
知盛も水をいれると、滑り台の裏に隠れている将臣目掛けて撃ち込む。
「ほぉ… これは飛距離が長いのだな… 面白い。」
「がっ!! 知盛のはめちゃくちゃ性能が良すぎるぜっ!」
そんな知盛へ撃ち返したはずの水は、性能の悪さから佇んでいる重衡へとかかる。
「………私も参戦いたしましょう。」
重衡もたっぷり水を入れると、水を補給しにきた将臣目掛けて撃ち込む。
「だーーーっ!!ずるいぞ重衡!!」
「ふふっ。 戦は知能も必要ですよ。」
公園は三人の武士のせいで戦さながら…
還内府、新中納言、本三位中将が水鉄砲で闘っているだなんて、誰が想像できよう。
すっかり三人ともびしょ濡れの中、くるくる光る赤灯が目につく。
「……げっ…」
「将臣殿、どうかなさいましたか?」
硬直している将臣を不審に思い、重衡が声をかければ…
「お前らーーーー!!!逃げるぞ!!!」
流石は還内府。
鶴の一声で、三人は猛ダッシュで逃げるのであった。
「はぁ・・・ やっと撒くことが出来たな。」
ほっと溜息をつけば、重衡が口を開く。
「将臣殿、あれは何なのです?」
「あぁ、あれは警察って言ってな検非違使みたいなもんだ。」
「はぁ。何故私達が…?」
「さぁな。公園でチンピラがケンカでもしてると思ったんだろう。」
「はぁ。」
「そうか…検非違使だったのか…」
さっきから無言だった知盛が漸く口を開く。
「あ?お前なんかあったのか?」
将臣が知盛に問いかければ、思い出しているのかクッと喉を鳴らす。
「ああ、あれにはもう何度も追いかけられた…」
「はぁぁああああ!?」
「絡まれたのでな、のしてやったらあれが来たんだ。俺は悪くないさ…」
「いや… のしたって… 過剰防衛だったんだろ…」
「……クッ…」
夏休みでこいつらと居るより、学校に通ってたほうが楽でいいんじゃないか…?
と思った将臣なのでした。
残念ながら夏休みはまだ始まったばかりだ。
頑張れ将臣。
06/19/2006