Moratorium
Apocalypse
016.5



昨日の雨は、昨夜遅くに止んだらしい。肌寒く感じる乳白色の空気に狭められる視界を厭いながら、ゆっくりと足を進める。

目指す場所を確認出来たらしいがあそこだな≠ニ呟くように言ってから、更に足を進めた先。左右対称に並ぶ四角い輪郭を捉えた私は、自然と足を止めていた。

「――あんま時間無いぜ?」

暫く黙っていたの言葉に頷いて、また足を進める。この機会に一度行っておきたいと言ったのは私なのに、近付くごとに足が重くなってしまう。だけど、どうしても行っておきたかった。

早朝、私達はある場所に来ていた。外部居住区にあるここはKIA者達を供養する為の慰霊地で、誰でも好きな時に訪れる事が可能だ。けれど、ここに遺体が収められているわけではない。あるのは中央に埋められた縦長の大きな石版が一枚と、その左右に大きな石碑が――今は二つ。

「…………あった」

まだ表面に滑らかな部分の多い石碑を、下から順に確かめて数秒後。2068≠ニ刻まれた少し下に三つ並んだ彼等の名前を見付け、ゆっくりと手を伸ばす。遅くなってごめん、でも――もうあの時みたいな顔はしてないよ。と、心の中で語りかけながら。


Captain Alexei First lieutenant Juza Second lieutenant Ryan


指先で辿って行く内に目頭が疼くのが判るけれど――彼等の残した言葉を思い出して、涙の代わりに笑みを浮かべる。そして膝を着き、両の手指を組み、目を閉じ、初めて会った頃に見たアレクの姿を真似た。

瞼の裏に浮かぶのは良い思い出ばかりではないし、思い出せば泣きたくなる記憶も完全に薄れてはいないけれど――それでも。全てが彼等の生きた証だから、忘れたいとは思えない。

まだ薄明るくなったばかりの世界は静かで、時折り髪を浚う風と、それに逆らい切れずに地面へ落ちる雨の名残り。静寂に包まれた場所で、その二つだけが鼓膜を擽っていた。

∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

あの日殺せない≠ニ泣いていた私は、自分の気持ち以外を理解しようとしていなかった。驚くほど冷静なまま彼等を殺すと言ったの事も、頼むと懇願する彼等の事も。そうしなければ、この先どうなるかという事すら考えられず――ただ泣いていた。

『良いか、間違ってもあの世に逃げんじゃねーぞ?!』

最後に怒鳴って走って行ったライアンの。

『ヒュ〜、言うねぇ?粋がっちゃってー』

茶化しながらアサルトを構えたジューザの。

『こういう時はお互い様だろう?後は任せてくれ』

笑って構えたバスターでチャージを始めたアレクの。

変わり果てた仲間達の姿を目にするまで。彼等が殺してくれと口にするまでは、泣かずに居られたのに。どうしてこんな事になってしまったのか、どうして仲間を殺さなければならないのか。彼等はまだ自我を保っていて、人の身体を残しているのに。そんな事ばかりが頭に浮かんで、辛くて、悲しくて、苦しかった。

あの時、逃げなければ良かったんだろうか?足手纏いになる可能性が高くても、秘密を知られてしまうのだとしても、あの時逃げなければ――こんな事にならなかったんだろうか?どれだけ考えても、あの時には戻れない。だから――袖で涙を拭って、顔を上げた。

『戻らない』

初めて神機を持たずに就いた任務は、毎年本部前で行われるデモの警備だった。その最中、テスカを神と崇める宗教団体の人間が女性職員を車で連れ去るという事件が起こった。そして、それを追跡出来たのはその場に居合わせた私達だけだった。

相手が一般人なら神機が無くても大丈夫だろう。そう過信していた私達の前に複数の大型アラガミが現れたのは、しがみ付いていた車が外部居住区を出て暫く走った後。大きな廃墟に入った時、あちこちに転がる屍と噎せ返りそうになるほどの血臭に目を疑った。

『おおぉ…神よ、どうか殺神者に制裁を!我々に救いの…ッ?!』

元は大きな工場か倉庫の類だと思われたその廃墟は、拉げた鉄骨や崩れかけの壁が大きな空間を支えていた。耳障りな狂気の声が、隅々まで響き渡った直後。集中型ミサイルの直撃を受けて吹き飛んだのは、恐らくこの集団のトップだったのだろう。

男が跪いていた筈の大きな石の祭壇らしき物には、大量の血と幾つかの肉片だけが残っていた。それを目の当たりにして半狂乱で駆け出した女性職員も、神と信じる存在を目前に平伏していた男も、あっと言う間にアラガミ達の餌食となった。

私達は只ひたすら攻撃を避け、どうにかしてその場から逃げようと手段を探した。だけど――出入り口は一つで、車は疾うに潰されていて。何とか外へ出られたとしても、力の限り走り続けたとしても、アラガミを引き離すのは不可能な状況だった。

このままジワジワと追い詰められて行くしかないんだろうか?いつの間にかトランス化している事に気付いてから、随分と時間が過ぎていた。追尾性能の高いレーザーを躱して着地すれば足に受けた傷がズクリと痛んだけれど、それ以上を確認する暇は無く、テイルスピンの直撃を受けないようステップで距離を取る。

少し離れた位置に視線を走らせれば、元々攻撃回避が得意なでさえ幾つもの傷を負っている。そして、もしこのままだったら≠ニいう恐怖と不安が膨らみ切った頃。漸く到着した彼等は、私達と然程変わらない有様だった。

『オラよ!…ったく、どうなってんだ一体?!』

『中も外も満員御礼、立見席無し≠チて感じだなー?』

『遅くなってすまない。オレ達が到着する少し前から、この付近にアラガミが集まってるんだ。外のアラガミは新米班と遊撃班が相手をしてる』

走り込んで来たライアンはの前に躍り出てスタングレネードを叩き付け、後方から連射されるバレットと共にジューザの声が飛び、私の目の前でアレクが装甲を展開させている。助かった、と思ったのも束の間。

『……博士の言った事、ホントだったのか。アンタ等それ、』

『ライアン!今はそれどころじゃないだろう?柳博士達がこっちに向かってる筈だ。君達には緊急帰投命令が出てる』

『戻ったら最優先で救援寄越せ≠チて言っといてくれよー?』

ライアンの言葉でハッとした時には、もう遅かった。神機を持たない私達がバースト状態にあるのは、どう考えても異常だ。穏健派である彼等が何かを知らされてここに居るのは、きっとフォルセの配慮だろう。

『お前等、』

『取り敢えず!帰ったらちゃんと説明しろよな?!』

『ついでに旨い酒でも奢ってくれたらチャラってどーよ?』

『とまあ、そういう事だから。心配しないで、今は早く!』

『は、っ…でも、みんな怪我…』

『おっと、敵さん気付いたみたいだぜ?ほれ、大奮発だ』

『神機も無いのにウロウロしてんじゃねえよ!さっさと逃げろ!!』

『オレ達も余裕があるワケじゃないんだ。だから――』

苦笑しながらの言葉に目を見合わせた私達は、心を決めた。アレクの言った余裕≠ヘ恐らく疲労と怪我の事だけじゃなく、携行品残量も含めた事なのだろうと見当が付いてしまったから。

『――判った。んじゃ、……また後でな!』

『ごめん…、真っ先に救援要請するから!』

その直後。再び顔を見合わせた私達は、声を出さずに小さく笑ってから駆け出した。その時返って来た言葉が、あまりにも彼等らしくて。何の根拠も無く、何に対してだかも判らないままきっと大丈夫だ≠ニ思えて。だけど――その考えが甘かったのだと思い知るまで、然して時間はかからなかった。

僅かな間に二転三転とした気分は、表へ出た瞬間、更に一転した。どこから湧いて出たのかと思うほどのアラガミが、廃墟へ押し寄せようとしていたのだ。その殆どがオウガ種だとはいえ体表の色は様々で、テイルも多い。戦闘の中心になっている箇所にはコンゴウとその堕天が数体と、シユウとその堕天が数体。それに比べれば、相手をしている神機使い達の数は僅かとしか言い様が無かった。

群れて襲い掛かるコンゴウ種やシユウ種と戦っているのは遊撃班の神機使いで、テイルを含むオウガ種と戦っているのは下士官以下の神機使いだと、一目で判る。四方八方で繰り広げられていた戦いはどちらを向いても劣勢で、特に経験が浅いのだろう神機使い達は苦戦しているようだ。

この姿を見られないように逃げなければ――と走り出した時には、威勢の良い掛け声や小さな呻き声が聞こえていた。苦労して廃墟から離れた頃には怒声や叫び声ばかりが耳に届き、一際大きく響いたそれが断末魔の悲鳴だと覚った時。

『なッ?!』

『マジかよ?!』

思わず足を止めて振り向いた私達の目に入ったのは、こちらへ向かって来るアラガミの群れだった。もう迷っている暇なんて無い。こんな状況では私達を確認出来るような人間は居ないだろうし、そんな余裕すらも無いだろう。そうでなくとも――たとえ倒す事は出来ないと解っていても、戦うしかない。そうしなければ、数分もしない内に死体が増えるだけだ。

そこから先は、あまり覚えていない。蹴り倒しても数秒で立ち上がるアラガミを相手に、逃げる事も碌にダメージを与える事も出来ない。そんな状態で正気を保っていられたのは、僅か数十秒の事だったから。

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『おや、漸くのお目覚めだね。気分はどうだい?』

ズキズキ痛む頭とムカムカ湧いて来る吐き気で、最悪な気分だった。何でフォルセが真上から覗き込んでるんだ?俺は今――って何秒か考えて、跳び起きた。瞬間、痛みと吐き気が酷くなって。

『やれやれ、もう少し大人しくしていなさい。まだ副作用が残っているだろうからね。も隣のベッドで眠っているよ』

あの時――はもう疾っくに暴走してた。それが判ってても、どうする事も出来なかった。異常な速さでアラガミを攪乱してるを横目に、俺は必死になって攻撃を避ける事しか出来なかったんだ。それが少し落ち着いたのは、アレク達が駆け付けた時だった。

外に出て、それは直ぐに悪化した。に頭を蹴り飛ばされたオウガが倒れてくのが見えたのは覚えてるけど…、群がるアラガミが邪魔でその場を動けないまま――終いには、俺も暴走したんだ。

それから――どうなったんだ?フォルセの口振りからすれば、何かの薬で俺達を大人しくさせてマーシュに戻ったってトコか。だけどアイツ等は?妙に怠い全身をベッドに投げ出したまま、顔半分を腕で隠したまま、俺は口を開いた。

『フォルセ…、』

『――何だい?』


聞きたい。けど、聞かない方が良いような気がした。
でもどうせ、ずっと知らないままでは居られないんだ。


『アイツ等…どうした?』

『そうだね――その事は、の様子次第で話そう』

とにかく今は休んでいなさい。とか何とか言いながら、フォルセはカーテンの向こうに行っちまった。って事は――悪い事態になってんだろう。どっちを向いてもアラガミアラガミアラガミで、あそこで戦ってたヤツ等が中に助けに行けたワケがない。

中にはテスカにカムラン、堕天サリエルが居た。オマケにファフニールとニーズヘッグ、スレイプニルまで途中参戦しやがったんだ。たった三人で、あれだけ消耗してたアイツ等が全員無事に戻って来る可能性なんて低いに決まってる。

そんな事、俺だってあの時に判ってた。外の有様を見た時も、デカい悲鳴で振り向いた時も、ヤバいって思った。ここから無事に戻れるヤツが何人居るのか、俺達は戻れるのかってな。

だけど、無事じゃなくても良いと思った。腕や足が無くなってたとしても、ちゃんと首があれば。生きて戻って来れば、それで良いって思ってた。けど次の日、俺達は項垂れる。

『どうして?!人が足りないのなら私が…』

の大声で目が覚めた俺は、怠さの抜け切ってない身体を無理矢理起こした。頭はまだ重いけど、痛みは無い。吐き気も無いって事は、もう副作用の心配は要らないって事だろう。

『落ち着け!もう終わったんだ。もう救援は…、必要無い』

てっきりフォルセが居るもんだと思い込んでた俺は、それを不思議に思いながらノロノロとスリッパを履いて立ち上がる。ユーリの声がして、静かになった一瞬後。一気に萎んじまったの声が、ヤケに大きく聞こえた気がした。

『終わった……?じゃあ、みんなは?』

『後でフォルセが話し――何だよそれ?!』

カーテンを開けて、言いながら目を向けた直後。身体の怠さも頭の重さも、一気に吹っ飛んだ。真っ白なカーテンを引いた先に居たは色褪せた拘束衣を着せられた上に、何本ものベルトでベッドに縛り付けられてる。真っ先に浮かんだ焦りはユーリの説明で消えたけど、それも含めてフォルセが色々と調べて来た結果を聞かされた時は――焦る事も出来なかった。


君達に使ったのは即効性の麻酔薬だ。は問題無かったんだけれど、には若干不足していたようでね。ロッソと二人がかりで連れ帰るのが、やっとだった。それで、マーシュへ連れ帰ってからは拘束具を使って大人しくしてもらっていたという訳なんだ。

落ち着いて聞いてくれって言われた後は、殆ど放心状態だった。

今回の事で、トランス化異常の厄介な症状が新たに見付かった。どうやら君達は、アラガミを呼び寄せてしまうらしい。それと、もう一つ。トランス化異常を起こした時、君達は完全に自我を失っていた≠ニ言っていたね?でもそれは、厳密に言えば間違いだ。君達の自我は、オラクル細胞によって抑え込まれている状態にあったんだよ。

だからあんな事になったのか?俺達が、あの状況を作ったのか?

つまり、自我を確立したままトランス化異常の予兆を捉えられれば、制御は可能かもしれないという事だ。飽くまでその可能性が高いというだけではあるけれど、君達には知っておいて欲しい。その上で、引退するかどうかを決めて欲しいんだ。

『そんなの……聞くまでも無いだろ?このまま俺達が…』

『今回の事件では重傷者が二人、KIAが七人、MIAが三人出ている。最前線で戦っていた三人の神機が回収されたのは、昨日の事だ。彼等の捜索は既に打ち切られ、数時間後にはKIA認定の発表がされるだろう』

『――私、』

『無理に続ける必要は無い。だが…、お前達の好きなようにしろ』

疲れた表情で諦めたみたいに言ったユーリが仕事に戻ってから、俺達は何も話さなかった。経過観察を済ませたフォルセも、部屋を出て行く時によく休めって言っただけで。

『――なあ

ベッドの上で声を出したのは、スピーカーからKIAが出た事を知らせる鐘の音が流れた時だ。それから夜中まで、俺達は散々考えた。引退するかどうかをじゃない。どうにかしてトランス化異常をコントロール方法をだ。

このまま俺達が引退しなけりゃ、また同じ事が起きるんじゃないのか?

フォルセに遮られた言葉は疑問として残ったままだけど、そうならない為に何か方法は無いのか。どうすれば、自我を確立したままトランス化異常を察知出来るのか。夜中まで考えた結論は、単純なもんだ。

トランス化異常で一番不足してる欲求を貪るってんなら、一番害の無いヤツをいつも足りない状態にしてりゃ良いんじゃねえか?

そう言った俺に、一瞬ポカンとしてからは言った。

――、それって名案かもしれない。食事と睡眠ならある程度制御可能だし、眠るだけなら迷惑をかけても害にはならないもの!

何か方法があるなら、引退する気にはなれなかった。あの時あの場に駆け付けたアイツ等とは逆に、今この場から尻尾巻いて逃げるなんて事、俺は絶対したくなかったんだ。

次の日になって俺達の答えを聞いたユーリは驚いてたけど、フォルセはいつも通り淡々としてた。多分、俺達の答えはフォルセの予想通りだったんだろうな。それから半月ぐらいだったか。完全に外出禁止状態だった俺達は、有り余る退屈な時間を使って、食欲と睡眠欲と性欲を可能な限りコントロールする方法を探した。

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あの任務がアサインされたのは、俺達が休暇を全部使い切ってから直ぐの事だ。あの状況は、本当にキツかった。思い出すと、今でもいつの間にか拳を握り締めてる。けど、もうあの時みたいに必死で感情を抑える事は無くなったんだ。

随分待たせちまったけど、約束は全部守ったぜ。これで満足だろ?

届く事のない言葉を口にする気は更々無いし、返って来る筈のない答えを想像する必要も無い。時間はかかったけど、約束は果たしたんだ。アンタ等が文句の付けようもないってぐらい完璧に、な。だから――返事なんて聞かなくても、聞く前から判ってる。

「お待たせ」

そう言って立ち上がったに、無言で片方の瓶を手渡す。ペキリと軽い音を立ててその口を開けると、度数の高い酒の匂いが鼻を擽った。顔を見合わせてニヤリ、俺達は笑って前を向く。トクトクと心地い音を立てながら零れる琥珀色は、三人の名前を濡らしてあっと言う間に落ちて行った。

「私達の       友人に」
      親愛なる
「俺達の       仲間に」

四分の一ぐらいに減った中身を確かめるみたいにして、顔の高さまで上げる。一緒に飲みたかったんだぜ?俺達だって。

「Kippis!」

加減してぶつけられた二つの瓶が高い音を立てて、中身が揺れた。咽喉を熱くして空きっ腹に流れ込む酒は、聞いてた通り良い酒だった。

∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵

さーん、さーん!」

昇り切った朝陽が辺りを照らし、齎された陰影で静謐さを増したような場所なのに。思わず苦笑する。そんな事、私達が知らない筈ないのに。そろそろ朝食みたいですよ≠ニ、それを知って呼びに来た風を装う彼等。

「おーい、あんまり大きな声を出すんじゃない」

ったく、大人しくマーシュで待ってりゃ良いもんを。物怖じするようなタマでもないクセに、何が慣れない場所ってのは居心地が悪くてなあ≠セ。大体、昨日あれだけ酔っ払ってグースカ寝てただろうがアンタは。

「……ん?――朝っぱらから良い身分だな」

ソーマの声で顔を見合わせ、ニヤリ。ジューザを真似て笑うと、残り少なくなった酒を見せびらかすように差し出して。

「欲しいのなら、素直に言えば?」

「良い酒なんだぜ、味わって飲めよ?」

「チ、誰が……」

「ほーお、そんな良い酒があるのに隠してたって事か」

「――リンドウさん、二日酔いじゃなかったんですか?」

歳も性格もバラバラで、それでも纏まりのある仲間達。もしかしたら、これからも似たような悲劇が起こるのかもしれない。だけど、それでも。私達は、いつまでも留まっている事を選びたくない。

最期まで、諦めたくないから。

だから、俺達はこれからも生きて行く。たとえ立ち止まっても、後ろを振り返っても。その先へ進む為に、いつかは前を向いて歩き出す。それだけが、先に逝ったヤツ等への手向けになると信じて。

来た時の静かさが消え、陽の光も温かみを増した。そろそろ居住区の朝も始まったんだろう。そこかしこから聞こえるのは、生きている人の出す様々な音。それを掻き消さんばかりに騒ぎ始めた彼等の後ろで、嘗ての彼等が声を立てて笑ったような気がした。





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(壁紙:Kigen/kazuさま)

そのまま本編に書くと長くなり過ぎるなぁ、という理由で番外編。
まだ本編じゃ極東支部に行ってすらいないのに、リンドウ復帰後の話。

Kippis(キッピス)=乾杯





橘朋美







FileNo.017.5 2013/8/12