春。相変わらずの面子と待ち合わせてゲーセンからカラオケに雪崩れようとしたトコで、いつもの賭けが始まった。賭けって言うか、オレ達にとっては単純なお遊びって感じ?
「んじゃ、早速ターゲット決めるか」
「オッケ。そんじゃ誰から行く?」
「そりゃお前……って、うっわ、すっげー美人」
あーあ、ポカーンとしちゃって。そんなだから成功率低いんだよ。とか思ってソイツの見てる方向に目を向けたら、何かちょっと納得。長い手足にメリハリのある長身。適当に纏めた感のあるプラチナブロンドの髪は気怠い雰囲気と色っぽさを引き出してるし、流行アイテムのサングラスもコーディネートに合ってる。
服装はオレの好みじゃないけど、魅せ方を知ってるって感じで着こなしは抜群。襟元を開いた真っ白なシャツに、焦げ茶の前面スエードベストは羽織ってるだけ。ナイトブルーのスリムジーンズの先は明るい茶色のモカシンで、派手なライン模様と短いフリンジが良い感じ。全体的にはシック系カジュアルってトコかな。
「よし。ニーナ、行け!」
「は?何それ、マジで?」
あれならモデルとか言われても納得しそう。なんて観察してたら、何言ってんだか。あんなレベル高そうなお姉さん、そう簡単に落とせるワケありませーん。てかさ、連戦連敗の腹イセ?とか思っちゃうんだけど。
「いや、流石にあれはニーナでも無理だろ」
「あ、そういう事言っちゃう?」
何となくその場のノリで、いつもみたいに声かける事になって。いざ声をかけてみたら――。すんげー後悔してたりすんだけど、今。ホントもう、現在進行形で。
「咽喉は乾いてないし、ナンパもお断りよ」
そこのお姉〜さん、暇?って聞けば遊びに付き合うほど暇じゃないわ≠チてバッサリだし、はばたきミックスジュースの話題出してもこれだし。何かもう、取りつく島も無いってこういう事?
ちょっと離れたトコで見てる筈の悪ダチ二人にからかわれんのも癪だし、何とか切っ掛けになるような話題があれば――って、ちょっと。
「ねえ彼女、そんなお子様相手にしてないで俺等とどう?」
「お腹空いてるなら食事でも奢るよ。それともどっか行く?」
如何にもって感じのお兄さん方に邪魔されてんだけど。しかも彼女、なーんも言わないし。何かムカつくかも、この状況。
「ダーメ。このお姉さんはアンタ達には勿体無いって」
「はあ?ガキが。生言ってんじゃねーよ!」
「ちょっと、」
「良いから良いから。ここは俺達に任せて」
いってぇ……、年下だと思って力尽くかよ。そっちがそう来るなら、こっちだってそれなりの対応させてもらおうかな。突き飛ばされて尻餅付いたままナンパも失敗なんてカッコ悪いし、上手く行けばこのお姉さんとお近付きになれるかもしれないし?
「さっさと放して頂戴。いい加減にしないと、」
「そうそう。その汚い手、離しなよ」
あ、こっち見た。サングラスをかけたままの彼女が凄く近くて、レンズの上の文字を見たらレイバンだって気付いた。その奥の目がビックリしたみたいに見開かれてて、ちょっとカッコ良いかも――とか思ってくれてんのかな?って考えたトコでお兄さん方の手が伸びて来たんだけど。
「えっ、ちょ!まっ、」
「な?!テメェ……くそっ」
「痛い目に遭いたくなかったら、さっさと退きなさい」
「チッ。優しくしてりゃ付け上がりやがって」
目の前で起きてる状況が信じられないんですケド。確かに背が高くてカッコ良いお姉さんだけど、とんでもない人に声かけちゃったかも、オレ。こういう人と関わったら最後、離れらんなくなりそうな気がする。
オレに向けられてた拳は彼女が簡単に払っちゃって、間髪入れずに一蹴。待って、って声かける暇も無かった。しかも、それだけで一人ダウンしてるし。もう一人はかなり本気って感じのヤバイ目付きで彼女に向かってったんだけど……御愁傷様、って言いたくなった。
弱い悪党向けの捨て台詞を吐いて逃げてく男達を見て、彼女に声をかけられるまで。どれくらいの時間だか判んないけど……。カンフー映画でも見てるんじゃないかって、ボンヤリ思ってた。
「大丈夫?怪我は?」
「えっ?あ。ああ、うん。助けてくれてあんがと」
すっげカッコ悪いんだけど助けてもらったのは事実なわけで、そうなると、やっぱお礼くらい言っとかなきゃって思った。ただそんだけの事だったのに。彼女の反応があんまり意外だったもんだから、ヤバイ――って思ったんだ。
「……ふふっ、どういたしまして。軟派なだけかと思ったけど、意外と勇敢な所もあるのね」
「あー、えーっと……あのさ、何か飲まない?あ、ナンパとかじゃなくて!さっきのお礼にって言うか、」
「急いでるの。機会があれば、その時にね。bye、Inexperienced boy」
「え?あっ!ちょ、……言い逃げかよ」
見てるだけだった薄情な悪ダチと別れて家に帰ったオレは、辞書を調べてた。彼女が最後に言った言葉の意味を知りたくて、耳に残った発音だけを頼りに。やっとこれだって感じのを見付けて、単純なお遊びを止めるって決めたんだ。
「未熟な坊や、って感じ?……痛いトコ衝いてくれんじゃん」
名前も素顔も住んでるトコも、年すら知らない。そんな彼女とちょっと過ごしただけの時間が、ほんの少しだけオレを変えた。中三になったばっかの頃だった。
◇◆◇◆◇
夏。単なる数合わせで誘われた海で、彼女とそっくりな人を見かけた。彼女本人だって断定出来なかったのは、髪形も服装もサングラスも違ったから。そっくりなのは、プラチナブロンドとスタイルだけ。一緒に居る子は彼女とは全然違うタイプで、どっちかって言うと可愛い感じだ。
男連れだから彼女かどうか確かめる事も出来なくて、ただ見てた。あんな如何にもって感じの男と付き合ってんのか。って思ったら馬鹿馬鹿しくなって来て、何で馬鹿馬鹿しくなってんのか考えてた時だった。
女の子が海の家に走って行くのが見えて、その直ぐ後。喧嘩になったのかもしんないな。その場に残ってた女が男のサーフボードを蹴飛ばした所で、きっと彼女だと思って立ち上がった。
「あ……」
「おい、ニーナ。どうかしたか?」
「新名君もおいでよー」
でも、オレの出る幕なんて無かったんだよな。言い合いをしてた彼女の所には直ぐに別の男二人が来て、あっと言う間に最初から居た二人は逃げてく。碌に顔も見えなかったけど、後から来た男達と歩いて行く彼女は何だか嬉しそうだったし。
最近付き合い始めたばっかの彼女とラブラブな悪ダチ二人と、その彼女や友達を入れた六人。いつもみたいにワイワイ楽しんでる振りしてたけど、心の中はムシャクシャしてた。名前も素顔も年も知らない、はばたき市周辺に住んでるんじゃないかってだけの事しか判らない彼女に。
どうしてか判んないけど、初めて会った時から――あー、やっぱ違うかも。カッコ悪いトコ見られた上に助けられて、それでも彼女が笑ってくれた時からだ。あれからずっと、彼女の事が気になってた。彼女の事を知りたいと思っても何の手懸かりも無いから調べようも無いし、どうしようもないんだって解ってんのに。
「あー、ゴメン。オレ、好きな人居るんだ」
「え……あ。そう、それじゃ……しょうがない、よね」
帰り道。今日唯一フリーだった女の子を駅まで送った時に告られて、スルッと出て来た言葉に驚いた。自分でも信じらんないけど、そうなのかもしれない。あの時から感じてる妙な気持ちを全部混ぜて、そっから答えを導き出すなら。多分、何となくだけど。そうとしか言えないような気がしたんだ。
◇◆◇◆◇
秋。そろそろ本腰入れて受験勉強を――なんて言われるほど普段サボってないオレは、下見を兼ねてはば学の文化祭へ。葉月珪の出身校だって知った頃から興味あったし、一応第一志望でもある事だし。ってか、まあ一番の原因は悪ダチ二人。
「この通りっ!なあ、頼むってニーナ〜」
「だーかーら、オレはもうやんないって。二人で行けば良いじゃん」
「お前が居ると居ないとじゃ大違いなんだよ!」
何て言うかさ、一夏の恋っての?あんだけラブラブだった彼女達は、散々盛り上がってた夏が終わった途端に飽きが来ちゃったらしい。いや、実際もう秋なんだけど。
冬のイベントシーズンに彼女が居ないのは寂しい!とか言って、使えるだけ伝手使ってあちこちの学際に顔出してるらしいけど、収穫ゼロとか。やっぱそういう時って競争率高いんだよなー。でもさ、だからってオレを餌にしようなんて考えが甘いって。
「ニーナ。お前、はば学受けるんだろ?」
「そうだけど?」
「だったら良いチャンスだと思ってさ!」
卒業生か在校生の知り合い。後は中等部の生徒でもなきゃ入れないっていうのが、はば学の文化祭。まさかと思ったけど、こいつ等ホントに知り合いが居たっぽい。けど、その知り合いが兄貴の彼女ってトコは微妙。
まあとにかく、その知り合いって事で四人纏めて通してもらってから見学開始。他の二人は早速可愛い子探してたりするんだけど、オレとしては下見の方が重要なワケで。
「おいニーナ、一人でフラフラするなよな」
「えー。だってオレ、ナンパしに来たんじゃないし?」
「お前、今更そういう事言うか?!」
いや。今更も何も、最初からそういう条件で来てんじゃん。なのに全然人の話聞いてないしコイツら。ちょうど昼時だし取り敢えず何か食おうって引き摺られてった先で、どっかで見た事あるような女の子が居た。女の子の知り合いなら顔忘れるワケねーし、ねぇ、彼女。どっかで会った事ない?≠ネんて古いナンパの常套句を使う気にもなれない。
結局その子の事はスルーして、野菜サンドとオレンジジュース注文して……って、その間も悪ダチ二人は女の子チェックしてる。オレはといえば、結構広い教室だよなー、とか。ここまで来た感じ、全体的にも広そうだなー、とか。一応、本来の目的を果たしてた。
「ん?何だあれ、すっげー」
「何々?――あ!」
「うわ、デカい奴ばっかじゃん」
会計済ませて廊下に出たトコで、オレの目は釘付けになった。遠くに見えたゴツイ団体さん、の中心で持ち上げられてる女に。適当に纏めた感じのプラチナブロンドと、あんだけ背の高い男に囲まれてても見劣りしない長身。きっとあの彼女だって思った。
それと一緒に思い出したのは、さっき見た女の子。海で彼女と一緒だった子だ。間違い無い。彼女の事を知るんだったら今からあそこまでダッシュするとか?それともさっきの子に聞いてみようか?そんな事考えて浮かれた気分になってたけど、あっと言う間に吹っ飛んだ。
「おいおい、マジ?あれ。キスしてるし!」
「…………っ、」
「男の方も外人か。女の方は制服だから留学生とかかもな」
サングラス越しじゃない彼女の目は、遠くから見ても日本人のものじゃないって判る。唇以外の場所にするキスなんて、外国じゃ当たり前の挨拶だって事ぐらい知ってる。だけど――。彼女がそうされてるトコを見て、彼女がそうしてるトコを見て。
「あっ、おいニーナ!どこ行くんだよ?!」
「んー?帰る」
「はあ?!帰るって、まだ来たばっかじゃん!」
そうかもしれない、とか。多分、とか。何となく、とか。そんなんじゃないって判った。彼女の事は気になってたけど、好きとかそういう恋愛感情だなんて言い切れないって思ってたのに。
ついさっき自覚した。多分はばたき市に住んでる高校生で、多分ガイジンさんで、名前の判らない彼女の事が好きなんだって。自覚したからってどうしようもないんだけどさ。何せオレ、未熟な坊やだし。
◇◆◇◆◇
冬。あれからオレは、普段以上に勉強してた。先生は心配無いって太鼓判押してくれてたけど、何が何でも絶ッ対ェはば学に行くって決めたから。学際行った何日か後にアイツらから話聞いて、それから。こんなのオレらしくないって思うけど、諦める気になんてなれなかったから。
「なーなー、はば学に金髪のお姉さん居たじゃん」
「……居た居た。けど、それが何?」
「あー、あのデカい男達に囲まれてた人な」
兄貴から聞いたんだけどさー。って前置きして悪巧みでも話すみたいに声を潜めて聞かされた話は、どこまで本当なんだかって思った。けど、妙に納得出来るトコもあったんだ。
はば学一年、。見た目は外人で名前は日本人。ピアスの桜井兄弟を手玉に取って遊んでる恐い女。男遊びが激しくて人の彼氏を盗ったりもする。不良相手に喧嘩しても負けない強さ。
「はあ?!何それ、マジで?」
「すっげぇ。姐さんって感じ?ヤバ系な人?」
「それがさー、もっと信じらんない話もあるんだよ」
入試でトップ取って新入生代表を務めた。期末テストは二回とも満点トップ。運動神経が良くて一時期は勧誘合戦があった。紙切れ片手に続いたヒソヒソ話は、そこで終わった。
「なーんか正反対じゃね?その噂」
「まーな。けど、はば学じゃかなり有名らしいぜ」
「へえ。ってかさ、桜井兄弟ってあん時居た二人じゃないか?」
あん時の二人か。確かに二人、制服着た男が居たっけ。私服だった男二人は家族とかだろうな、多分。けど、男遊びが激しいってのは嘘だ。それが本当だったらナンパ男相手に立ち回ったり、あんな風に笑ったりする彼女を見る事だって無かった筈だ。
不良相手に喧嘩しても……ってのは物騒だけど、強いのは目の前で見てたから知ってる。あんだけ運動神経良さそうなら、勧誘合戦ってのも納得。人の彼氏盗ったり――するのかな?想像出来ねー。頭が良いかどうかも全然無理。
「あー、それそれ!マジで桜井兄弟なんだってよ」
「ニーナ。お前、はば学行くなら気を付けた方が良いぞ」
「気を付けろって言われてもなー」
オレにとって重要だったのは、彼女がはば学の一年生だって事。後は入試でトップを取る事。ってゆーか、はば学の入学式で新入生代表の座を奪う事が一番重要かも。そうすりゃ全生徒の集まる入学式で一番目立つ場所に立てるし、彼女に自分の事アピール出来る。――かもしんない。
そうなんだよなーかもしんない≠チてのが、すっげー情けない感じ。彼女がオレの事覚えてるとは限らない。そう思うと何か悔しくて、意地でも!って気になったんだ。
◇◆◇◆◇
そして次の春。校門脇にある満開の桜に迎えられて、壇上から見付けた彼女にちょっとだけアピールして。一年前思ってたお気楽な感じとは全然違ったけど、とにかくオレのはば学ライフが始まった。

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本編と並行してAnotherSideを書いているので順番が前後してますが、新名のブランク一年はこんな感じの捏造で。
まだ書きかけですが、実は新名の前に設楽と紺野が入るという…わは。
あ、悪ダチってのは造語だと思います。
悪い事する友達じゃなく、悪友ってヤツ。
橘朋美
FileNo.AS.J-01 2012/9/3 |