partita



心地良く晴れた長閑な日の放課後。とある生徒を探し、一人の教師が学院中をうろついておりました。その生徒と親しいであろう生徒を見かける度に、同じ事を尋ねながら。

「お前さん、を見なかったか?」

彼の手には一枚の用紙が握られ、どうやらそれを彼女に手渡すのが目的のようです。果たして……彼は彼女を探し出す事が出来るのでしょうか。

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さんですか?さあ、僕は見ていませんけど。もし見かけたら、金澤先生が探していたと伝えておきます」

音楽科の教室には見当たらない、か。

まあ放課後だしな。他を当たってみるとするか。

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先輩、ですか?……今日は見てないです。それじゃあ、失礼します」

屋上になら居るかと思ったんだが……。

ああ、練習室も確認した方が良いだろうな。

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さんですか?いえ、俺は見てません。用件がそれだけでしたら、俺はこれで」

ふむ。ここには来てないらしいな。予約表にも名前は無いようだし。

他に練習出来るような場所は……っと。一応、音楽室にも寄ってみるか。


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「えっ?ちゃん居ないの?じゃあ、もしここに来たら金やんが探してたって言っておくね」

流石にオケ部の練習中ともなると部外者は居ない、か。

さて、どこを探したもんかね。

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「い、いえ。今日は一度も……。もしお会いしたら、金澤先生が探してらしたって伝えておきますね」

講堂のピアノを借りて弾いているかと思ったんだがなあ。

そういやはバスケ部だったな。……やれやれ、体育館まで行かにゃならんのか。

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「え?いえ、見てませんよ。今来たばかりですし……あ。良ければ、おれも手伝いましょうか」

そりゃまあ、そうだろうな。

あいつが校門前でウロウロしているとも思えん。さて、先を急ぐかね。

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「はあ?何で俺に聞くんだよ。あいつの事なら、音楽科の連中の方が知ってるんじゃないのか?」

やれやれ。森の広場にも居ない、か。

タビやハナさんも知らないようだし……まあ、幾らなんでも体育館へ行けば居るだろう。

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「え、先輩?私は見てないけど……あ、そうだ!校内放送で呼び出せば良いんじゃない?金やんだって一応は教師なんだからさ」

今日はバレー部の試合があるからバスケ部は休部だと?

おいおい……冗談じゃないぞ、まったく。一体どこに居るのやら。

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『あー、生徒の呼び出しをする』

下校時刻も間近に迫った学院内に響く彼の声。教師の行う呼び出しとは思えぬほど緊張感に欠けるそれは、あらゆる場所にその名を告げる。

『3年A組、。至急、音楽準備室へ来るように』

先ほどまでに彼女の所在を尋ねられた者達はまだ探していたのかと揃いも揃ってやや呆れた表情で放送に耳を傾けておりましたし、中には最初から呼び出せば良かったものをと溜息を吐く生徒まで居る始末。

『繰り返す。3年A組、。至急……』

しかし……。繰り替えし流された言葉は彼女の耳に届く事も無いまま空しく夕空に呑まれ、何も知らない本人は部室の片隅で転寝中。

「ええっ?!幾らなんでもそれは横暴ですよ!」

翌、朝一。校門前で彼に呼び止められた彼女は事の次第を聞き、手渡された用紙と彼の顔を交互に見遣り、抗議の声を上げたのですが……。

「年寄りを散々歩き回らせた罰だ、軽いもんだろう。じゃ、頼んだぞ?コンクールのレポート」

それは即座に却下され、尚且つ――。

「代わりと言っちゃ何だが……お前さんの練習、見てやるからさ」

という彼にしては珍しい申し出に、つい誤魔化されてしまったのです。結果、彼女の手には参加者全員の名が連ねられた用紙が納まったのでしたとさ。めでたし、めでたし……?





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(壁紙:SkyLine/さとちゃ さま)

「partita」と「variation」の違いに悩んだ挙句、全員を出して書いてみたいという思いと桜散るの短編「還内府の日常」のような絵本風で書いてみたいという思いから生まれた、特に何という事も無い極平和な日常のひとコマ。





橘朋美








FileNo.106 2009/5/26 ※2010/10/12修正加筆