prelude
土浦梁太郎




第一印象?…………まあ、最悪に近かったな。今?そうだな――良い先輩だと思うぜ。男女や学科の違いはあっても、あの人はそれを感じさせないからだろうな。

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強制練習の日じゃなけりゃサボる奴が多くて、ペアを組む相手を選ぶ余裕が無くなる。これだから雨の日は困るんだ。実際、俺の相手は反りの合わない三年で、挨拶をしても無視しやがった。

「難しいコースでもちゃんとフォローしろよ」

なんて言いながら、ワザとパスを逸らしやがる。いけ好かない奴だぜ。しかも、何回目かに蹴り返されたボールは明後日の方向へ飛んでった。ちっ、何やってんだよ。危ないだろうが。

「って、おい避けろ!女バスの三ば……?!」

そいつの後頭部に当たったボールは、辺りの悲鳴を嫌って逃げるように隅へ転がっていく。慌てて倒れた女に駆け寄ってみれば――気を失ってる……のか?……冗談だろ?!くそっ。俺にも責任が無い訳じゃないんだし、放っておく訳にもいかないか。

「おい、大丈夫か?聞こえてるなら何か反応しろ」

鬱陶しい雨続きで、練習相手はムカつく奴で、正直かなりイラついてた。だが、幾ら何でも気付いた女の第一声があれじゃなければ、俺だってもっと丁寧に接したさ。まあ、多分……な。

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第一印象?うーん……無遠慮で生意気な一年坊主だなって思ったよ。今?うーん――――あまり変わってないかも。ああ、でも以前みたいに棘は無いから……口の達者な可愛い後輩、ってトコかな。

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雨の音と人の声。ボールの跳ねる音やシューズの鳴る中でいきなり大声がしたと思ったら、女バスのって。何なのかと思うよ、そりゃ。けど、振り返る暇も無く後頭部を殴られた――のかと思った。後で聞いた話だと、数分意識を失っていたらしい。

気付いた時に見えたのは、サッカー部の練習用タンクトップ。そういえば、雨続きでグラウンドが使えないからって言って体育館で練習してたっけ。じゃあ、私は殴られたんじゃなくてゴール代わりになったって訳だ。そう思って出た言葉は、別に喧嘩を売ろうと思って言ったんじゃなかったんだけど。

「……ノーコン」

「何だと……?」

大体、急を要する注意を促す時ってのは個人を特定してから注意すべき事を伝えなきゃ意味が無い。先に女バスの三番って言ってくれれば何事かと思って声のする方を向いたのに。あ、でも……避け損ねたら、顔面でボールを受けていたかもしれないのか。それにしても、何だかおかしな感じがする。頭が痛むのと少し気持ち悪い感じがするのは、まだ脳震盪の余波が残ってるからかな?多少朦朧としてはいるけど、体育館に寝ているにしては……?!

「ちょっと……何してんの?下ろしてよ!」

「俺だって好きでやってる訳じゃない。保健室に着くまで我慢しろ」

ただでさえ意識の無い人間を抱いて走ってきたんだ。これ以上重く感じるような事をしないでくれ。って……黙って聞いていれば、好き勝手言いたい放題言ってくれるじゃないの。女の子に重いだなんて――たとえそれが本当の事だとしても一番の禁句でしょ?!思わず大声を出してしまったのが拙かったのかもしれない。頭がガンガンして、吐き気まで。もう喋っていられなくて思い切り睨み付けてやったのに、返されたのはさっきみたいなキツイ視線と言葉じゃなかった。

「頼むから大人しくしてろ。お前の顔、ずっと青いままなんだからな」

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あははは……はあ。参っちゃったな、これ。どっちの取材も上手く行ったのは良いけど、これを記事にしたら――うん。絶対にウケる。当人達以外になら。で結局、悩んだ挙句に記事にしたんだけど……。

「何でこんな事まで喋ってるんだよ?!」

「そっちこそ余計な事喋ってるでしょ!」

「ただ『保健室に運んだ』って言えば済む事だろうが!」

「単に『女には禁句だった』って言えば通じるでしょう!」

まさか論点がそこに来るとは……流石の私も思わなかったな。ま、まあ、喧嘩するほど仲が良いって言うし?仲良き事は美しきかなってね。


だけど、本当に知られたくない事は話していない。話せる筈も無い。


その身体の柔らかさに眩暈がしそうだった事は、俺だけの
                                   秘密のまま。
その強くて優しい視線を心地良いと思った事は、私だけの





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(壁紙:NEO HIMEISM/雪姫さま)

短編は、これからもこんな感じで増えていきます。
サイトを始めてから暫くして気付いたんですが、どうも私はタイトルを考えるのが苦手なのですよ。
これまでにも、本文は仕上がっているのにタイトルが決められないまま数日放置……などという事態が何度もありましたからねぇ。
そうそう。名前が出なくても解るように書いてみたつもりなんですが、如何でした?
しかし、CGIが使えない状況に陥ったこの時に変換無しの短編を書いていたとは。
いやはや、面白い偶然もあるものですね。





橘朋美







FileNo.103 2009/5/17 ※2010/10/12修正加筆