暗闇が流れ込み、仄かな灯火が辺りを照らす頃。
自室に戻ろうとした私を呼び止めるのは――。






「お、か。良いタイミングだな。お前も来るか?」

「お前も……飲むのか」

「そうだね。涼しくて気持ち良いし、外で飲むなら付き合うよ」

「それは良い案ですね」

珍しい事もあるもんだよね、この面子で宴会なんて。蒸し暑くて飴みたいに溶けてしまいそうだった季節は、いつの間にか涼やかに虫の音が響く季節に移り変わっていた。酒を飲むのには丁度良い季節だ。

「なんでこの面子が揃ってるの?」

「さあな」

いや…自分で解ってないのは問題じゃない?

「将臣殿に呼ばれたのですよ」

「あ〜…なんつーか、祝い酒ってヤツだよ。な?」

へ?同意を求められても訳が解んないんだけど。

「そもそも、何を祝うわけ?」

「こいつ等の誕生日だよ」

指差された知盛と重衡は意味が解らないみたいで視線を交わしているけど、私にしてみれば驚きの事実だ。

「君等、双子だったの?」

「は?」

誕生日というものを現代の感覚で認識している将臣と、そうじゃない知盛や重衡とではその驚きの意味が違ったんだろうけど。表現方法は見事に一致して、三者三様の笑いを誘うまで数秒かかった。


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片手で腹を抱えて、片手で人の肩を叩きながらまだ笑ってる。君も大概、オーバーアクションだよね。

「ははははっ!お前、こいつ等が双子に見えるか?」

見えないから驚いたんだっていうのに。――いい加減にしておかないと、子供みたいにお腹痛くなって吐くよ?なんて事は、態々言わない。

「誕生日……ですか?」

「ああ。今日と明日、お前等の生まれた日なんだろ?」

へぇ。それでパーティー代わりに酒宴って事か。けど、どうしてそんな事知ってるんだろう?この世界ではそんな風習は無いし、表沙汰にもしないのに。

「……何故お前が、それを知っている」

「ああ、尼御前に聞いたんだよ。俺の誕生日の後でな」

ああ、そうか。そりゃ、産んだ本人なら覚えてても不思議じゃないよね。それにしても、自分の誕生日は忘れ掛けてたのに律儀だなぁ。

「この面子じゃ酒が足りなそうだけど?」

「は?マジか?」

将臣は知盛とも重衡とも飲んだ事が無いんだろうなぁ。知盛は一人で飲んでる事が多いし、重衡は普段はあまり飲まな……ん?そういえば、将臣が酒を飲むようになった事自体が最近なんだ。なら、知らなくても当然か。

「足りぬだろうな」

「ええ。足りないでしょうね」

バレーボールを拉げたような酒瓶を二つ提げているけど、その程度じゃね……多分、ほろ酔いにもならない。

「二人とも笊だからね。私の部屋からも持って来るよ」

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さっさと歩いて行くを見ながら種類の違う小さな笑い声が二つ。こいつ等がこういう笑い方をする時は、大体何かあるんだよな。

「俺達が笊、か――ならばは…」

「あいつも結構強いだろ?」

「ええ。は箍ですね」

「は?タガって――」

「笊より更に、という事です」

「底無し――とも言うな」

おいおい……お前等三人でどれだけ飲む気だよ?戻って来たは酒瓶を二つ提げて、また変わった服を着てた。深緑と燻銀の模様が入ったその服は前の時みたいな妖しい艶やかさは鳴りを顰めていたが、凛々しく涼しげな立ち姿に見惚れたのは俺だけじゃないらしい。

「ほう?珍しい事もあるものだ」

「偶にはね」

「そのような装いで祝って頂けるとは。誕生日という風習も良いものですね」

「別に服装は関係無いぜ?人の生まれた日に、その人間を祝うんだからな」

「生誕の祝い、か。……酔狂な事だ」

「それもまた一興、じゃないの?」

「ふふ……には敵いませんね」

「プレゼントやケーキが欲しい年でも…っつーか、その物自体が無いんだけどな。パーティーって言っても酒盛りにしかならねえが、お前等にはこれで丁度良いだろ」

この世界では通じる筈の無い横文字の羅列は、俺に即席現代語ミニ講座の講師を義務付けた。

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軽装では肌寒く感じるも、静かな夜風に吹かれて酒を酌み交わす。時が経つにつれて饒舌になる男達は、女房達の喜びそうな会話を繰り広げる。肴は疾うに無くなって、転がる酒瓶が三本――ペースが速いなぁ。

「ん?ー、どうした?」

「酒が切れそうだからね。持って来るよ」

今にも酔い潰れそうな将臣の問に答えれば――。

「足りないのか?」

「足りるの?」

その傍らの知盛が視線だけをこちらに向けて問う。

「私が参りましょう」

「大丈夫。直ぐに戻るから飲んでなよ」

ふらつく事もなく立ち上がった重衡を制して歩き出そうとした時。

「なら、俺の部屋で飲もうぜ」

将臣にそれを遮られた。

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「で?どうして君が寝てるのかな〜?」

髪を引っ張ろうと、頬を突こうと起きやしない。諦めて立ち上がると、にやりとした薄笑いを浮かべた知盛と目が合った。

「偶には――逆の立場になるのも悪くない。だろう?」

「良くない。その足、下ろしなさいって」

似たような笑みを浮かべて見据えれば、お優しい事で……って、それは違うと思う。重衡は重衡で夜は冷え込みますからって衣を掛けてるけど……それ、何で私にかなぁ?

「ありがとう。で、寝てる人には無いの?」

「酒の火照りが引いてからの方が良いでしょう。剛健な方なのですから」

にっこり綺麗に微笑んでるけど、それも違うような気がする。仕方なく引き摺って床に押し込んでお開きかと思いつつ振り返ると、しっかり飲み続けている二人の手元には増えた酒瓶が。どこから……いや、いつの間に持って来たのやら。酒豪達の宴は、簡単には終らないらしい。

「君等、随分仲良くなったね」

「仲良く、ですか?」

「クク……何の事やら」

初めて会った頃に比べれば、段違いの仲良しっぷりだと思う。いきなり斬り掛かかったり優しい顔で脅したりした人達に噛み付いていた人間が一緒に酒を飲む間柄になったのなら、仲良くなったと言っても良い筈。

「諍いを起こし、あなたを悲しませるのは本意ではありませんから」

「お前に、始終喚かれては堪らんからな」

そんな理由を付けてみても、それぞれが認めつつあるのは確かだ。清盛以外に敵視されていた彼がこの兄弟に受け入れられたのは、重盛に似ているからではなく、一人の人間としてだから。いつもより、のんびりと言葉を紡ぐ。……忘れられない事を思い出しながら。

暗い感情に支配されそうになった時でも、忘れたくない人達を思い出せる。

「ふふ。私が原因じゃない、でしょう?」

訝しげに眉を顰めてじろりと打ち込まれるような視線も。

「自分自身を受け入れてくれる人がいるのは……幸せ」

柔らかに微笑み、ふわりと緩く包み込むような視線も。

「自分自身を求められるのも、幸せ」

どちらも大切で、守りたい。護るべきもの。


膝立ちで屏風を除け、後ろ手を着いて空を仰ぐ。その幸せを自分に与えてくれた人達を見るように、その人達の象徴物であるような――光り輝く月を見る。

「知盛、重衡、受け入れてくれて…ありがとう」

そんな君達が生まれてきた日に感謝を。
そんな君達を産んでくれた尼御前に感謝を。
そんな君達に逢わせてくれた兄さん達に感謝を。


ずれた衣と共に肩を覆う、温かな腕に。

「重衡、誕生日おめでとう」

「はい。ありがとうございます」

視界を覆い尽くし頭を囲う、温かな腕に。

「知盛、誕生日おめでとう」

「”サンキュ”……とでも、言っておこうか」


銀の髪、紫の眼、温かな腕、誕生日。似ているようで、似ていない。それでもどこか近いものを持つ兄弟に囲まれて、極上の時を過ごす。この気分は、きっと酒だけの所為じゃない。

「今日、くらいは……に免じてやろう」

「兄上。それは私の申し上げる事です」

眠りに落ちる刹那。聞こえた声は低く、小さく……耳に心地良いものだった。

「ック……面白い事に、なって来たな」

「恋敵が多いなど、面白いとは思えませんが」

その先が聞こえていなかったのは、私にとって良い事だったのか悪い事だったのか。それを知る人は、誰も居なかったけれど。

++++++++++++++++++++

「……お前等、何やってんだよ?!」

壁に凭れ掛かって眠るの、投げ出された両足。正しくは両腿か――?その上に乗る銀髪頭が二つ。ったく……人が寝てる間に何やってんだ。

「知盛、重衡……とっとと起きろ!」

「煩い……静かにしろ」

「将臣殿。そのように大きな声を出されては、まで起こしてしまいますよ」

珍しく知盛まで起きてんじゃねえか。……確信犯かよ。

「だったら早く退いてやれよ」

「んぅ?……おはよう将臣、どうかした?」

顎で指す先に、視線と髪が落ちる。さらさらと零れる髪を絡め取りたくなるような気分に……って、お前等?!

「……起きたか」

「おはよう。知盛、重衡」

「おはようございます。ふふっ…朝陽と見紛う美しさですね」

左右の下からの髪を絡め取り玩ぶ兄弟に怒り心頭の将臣が自室に転がっている幾つもの酒瓶を見付け、更なる大声を上げるまで後十秒。





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(壁紙:Atelier Black/White/たかむらちはる さま)

※ここでの「確信犯」は本来の意味を示しません。
単純に「自分の行動が何を意味するかを判っているくせに止めない性質の悪い人」だと考えて下さい。

番外編に置く前に微修正…どころか、書き直し !!変換前のテキストを捨ててしまったのですよ……はぁ〜。
この下は、フリー設置時の後書きのようなものです。


知盛、重衡、誕生日おめでとーう!銀髪兄弟誕生日短編、如何でしょう?
(余計な者が居るな)”チャキ”(そのようですね)”カツン”

刀も方天戟も仕舞えっ !じゃないと出番減らしちゃうよ?
(ちっ…)(く…卑怯な)

いや、何てったて歩く黒い18禁と歩く白い18禁が揃ってんだし、ブレーキ役が居ないと豪い事になっちゃうでしょーよ?

それが、《俺》《私》の所為だとでも?

いや?私の暴走癖の所為じゃないかな。
((…………))

それに将臣好きだし、台詞もぼろぼろ浮かぶんだよね〜。

(その割には、良い思いさせて貰ってねえよなあ?)

そりゃ銀髪兄弟の誕生日だし、君は前回独り占めさせてあげたじゃないか。
(独り占め…だと?)(見てるだけだったろーが!)(それは初耳です)

殆ど一日中一緒だったんだから、良いじゃんか〜。
(一日中?)”チャキ”(生殺し以下だろうが!)”ヂャギ”(一緒だった?)”カツン”

あ、ははははは…逃げるが勝ちっ!!
(((待てっ!!!)))





2006/9/23:朔良宴・橘朋美







FileNo.102 2006/9/23 ※2010/10/4修正加筆